データセンター発熱問題に対応する、新たな冷却システムとは?
データセンターにおける冷却システムの重要性
データセンターは現代の情報インフラストラクチャの中心として、膨大な量のデータ処理と保存を担っています。しかし、高性能なサーバーや機器の集積は、同時に大量の熱を発生させる原因となっています。この熱は、適切に管理されないと機器の劣化や故障、さらには運用の安定性に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのため、データセンターにおける冷却システムは、単なる付随的な設備ではなく、運用の信頼性と効率性を確保するための不可欠な要素となっています。
冷却システムの電力消費について
データセンターの冷却に要する電力消費は、全体の電力使用量の中で無視できない割合を占めています。従来のデータセンターでは、サーバーが約50%、電源・冷却系が25~30%、ストレージが10%程度の電力を消費していました。
しかし、高性能なサーバーの導入により、冷却に必要な電力も増加しています。この電力消費は、データセンターの運用コストを押し上げるだけでなく、環境負荷の観点からも大きな課題となっています。
液浸冷却装置とは?
液浸冷却装置は、サーバーなどのIT機器を直接冷却液に浸して冷却する革新的なシステムです。この方式では、熱伝導率の高い特殊な冷却液を使用することで、従来の空冷方式よりも効率的に熱を除去することができます。
従来のデータセンターの冷却システム(空冷システム・水冷システム)
従来のデータセンターでは、主に空冷システムが採用されてきました。このシステムでは、大量の冷気をサーバールーム全体に送り込み、機器を冷却します。また、水冷システムも一部で使用されており、これは冷却水を配管を通じて機器近くまで運び、熱交換を行う方式です。
液浸冷却装置の原理(単相式・二相式)
液浸冷却装置には、主に単相式と二相式の2種類があります。
単相式液浸冷却
単相式では、冷却液の沸点が100℃を超えるものを使用し、液体の状態を維持したまま冷却を行います。電子部品から熱を吸収した冷却液は、熱交換器を通過して冷却され、再び冷却タンクに戻るという循環サイクルを形成します。
二相式液浸冷却
二相式では、沸点の低い冷却液を使用します。この方式では、冷却液が電子部品の熱を吸収して蒸発し、その蒸気が凝縮器で冷却されて液体に戻るという相変化を利用します。この過程で潜熱を利用するため、より高い冷却効率を実現できます。
従来の冷却システムとの比較
液浸冷却装置は、従来の空冷システムと比較して、以下のような利点があります:
- 高い冷却効率:液体の熱伝導率は空気よりも高いため、より効率的に熱を除去できます。
- エネルギー消費の削減:KDDIの実証実験では、空冷による冷却に比べて94%の電力削減を達成しました。
- 省スペース化:冷却設備のサイズが小さくなるため、データセンターの設置スペースを有効活用できます。
- 静音性:ファンや大規模な空調システムが不要なため、運転音が大幅に低減されます。
- 高密度化対応:1ラックあたりの消費電力が15キロワットを超える高密度環境でも効果的に冷却が可能です。
導入における課題
液浸冷却装置の導入には、いくつかの課題も存在します:
- 初期導入コスト:冷却液や専用の装置が高価であり、初期投資が大きくなる傾向があります。
- 既存システムとの互換性:従来の機器をそのまま使用できない場合があり、適応が必要です。
- メンテナンス:液体を扱うため、メンテナンス作業が複雑になる可能性があります。
- 光接続の対応:従来の光ケーブルや光モジュールでは液浸環境での使用が困難でしたが、Accelinkなどの企業が液浸対応の光モジュールを開発しています。また、光コネクタに関しても、現在開発を行っている企業が出てきています。
まとめ
データセンターの冷却技術は、急速に進化しています。液浸冷却装置は、高い冷却効率とエネルギー消費の大幅な削減を実現する革新的なソリューションとして注目を集めています。しかし、その導入には初期コストや既存システムとの互換性など、いくつかの課題も存在します。
今後、データセンターの需要がさらに拡大し、高密度化が進む中で、液浸冷却装置はますます重要な役割を果たすことが予想されます。技術の進歩とともに、課題の解決も進み、より多くのデータセンターで採用されることで、エネルギー効率の向上と環境負荷の低減に貢献することが期待されます。
参考情報
- 情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響(Vol.2)-データセンター消費エネルギーの現状と将来予測および技術的課題-(国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター、2020年2月)
- 液浸冷却:データセンター向けの究極の冷却ソリューション-2(UniPo株式会社)
- NTT技術ジャーナル『カーボンニュートラルに貢献する「次世代型データセンタ」プロジェクト』(2025年1月)
- KDDI株式会社『データセンター内のサーバーを液体冷却冷却電力の94%減を達成』(Open Compute Project Japan、2023年6月)
- Green Revolution Cooling, Inc. ‘Two-Phase Versus Single-Phase Immersion Cooling’, November 13, 2019
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