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レアメタルフリー熱電モジュールの開発

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熱電変換技術とは?~(株)白山の開発背景~

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「独創と挑戦」により、新たな価値を創造する。
株式会社白山です。

今回の記事から株式会社白山・熱電開発部が手掛ける研究開発の内容をお届けします。
記事の連載テーマは、「レアメタルフリー熱電モジュールの開発~持続可能な熱電技術~」です。

2016年、株式会社白山は石川県工業試験場に熱電変換材料の開発をメインとする金沢R&Dセンターを立ち上げました。
今回の記事では、熱電変換技術、そして、株式会社白山のレアメタルフリー熱電材料の開発の背景について、お伝えできればと思います。

熱電変換 とは?

熱電変換とは、半導体や導体などの物質の特性を利用し、熱から電気を生み出す、電気から熱を生み出す、現象のことをいいます。
熱電変換を起こす物質(材料)のことを熱電変換材料(熱電材料)と呼びます。

熱電変換材料は、モジュールという電子部品の形にすることでその性能を発揮します。
熱電変換材料は、電圧の方向により、P型熱電素子とN型熱電素子に分かれます。
その異なる2種類の素子を直列に電極で繋ぎ、絶縁体のセラミック基板で組み立てることで、熱電モジュールが完成します。

そのモジュールを使うことによって、得られる現象が熱電変換と呼ばれるものになります。
具体的には、電気を流すことで片側の基板に吸熱(冷却)または放熱(加熱)現象を発生させる効果(ペルチェ効果)と、上下の基板に温度差を与えることによって電圧を発生させる効果(ゼーベック効果)を起こすことができます。

市場においては、熱電モジュールないし熱電変換モジュールをペルチェモジュールやサーモモジュールといい、主な用途として冷却機能(ペルチェ効果)を持つ電子部品として、広まっています。
ワインセラーなどの民生品、PCR検査装置や光通信用デバイスの温度調整、半導体製造装置の冷却に、このペルチェモジュールが使用されています。

しかしながら、近年では、国連が提唱する「持続可能な開発(SDGs)」の達成や脱炭素社会実現への取り組みの一環で、排熱利用をする技術として、熱電変換技術への関心が高まっています。

熱電技術を取り巻く材料課題

ペルチェモジュールの需要の増加や発電技術のひとつとしても注目を集める熱電技術ですが、同時に材料に関する課題も少しずつ認知され始めています。

熱電素子は特殊な合金であり、その材料にはビスマス、テルルと呼ばれる金属材料がよく用いられます。
いずれの材料もレアメタルであり、特に(確認されている)テルル埋蔵量は約 32,000tと白金(プラチナ)よりも少ない量となっています。
また、テルルは毒性を持つため、取り扱い時には注意する必要があります。
そして、生産国も特定の国に偏っているため、持続可能な原材料調達という観点では、懸念が残ります。

参照:USGS, Mineral Commodity Summaries 2023

上記の理由から、熱電モジュールは高価になりやすく、用途も限定的なものに留まっているのが現状です。

「主要原材料がレアメタルであり、埋蔵量も決して多いとは言えないため、その技術は持続可能なものなのか?」

「今後、この技術がより汎用性の高い技術として広まるためには、低コスト熱電モジュールが必要とされるのではないか?」

株式会社白山は、この材料に関する課題を感じ、レアメタルフリー熱電モジュールが将来的には求められると考えたため、レアメタルフリー熱電モジュールの開発に取り組み始めました。

レアメタルフリー熱電モジュールの開発

ビスマス、テルルではない金属材料を用いて、熱電材料を作り、熱電技術を世に多く広げることで、今後増えてくるニーズに対応する。

そのためには、低コストで、かつ、市場で利用されているペルチェモジュール(熱電モジュール)と同様の使い方で同等レベルの性能が必要となります。

株式会社白山が、その有力候補として選んだのは、マグネシウムシリサイド系(MgSi)材料です。
熱電変換モジュールの原料開発として、研究がされており、その性能も一定程度認められているためです。

ただ、いくつかの技術的な課題が残されています。

まず、この熱電材料は高温下で性能を発揮する材料であることです。
熱電材料は、どの温度帯で使用されるかによって、その性能・出力が変わる、温度依存性があります。
一般に開発が進められているマグネシウムシリサイド系熱電材料は、中温~高温環境(300℃以上)で性能が発揮されるものであり、現在の熱電モジュールは、50℃~150℃(低温域)で使われることが多くなっています。

また、高温下で性能が発揮するということは、高温下で使用されるということになります。
熱電モジュールは熱電材料と電極との接合を行う必要がありますが、安価な接合方法であるはんだ付けを行うことができません。(一般的なはんだペーストは、200℃未満の耐熱性であるため)

そのため、市場で利用されている熱電モジュールの代替材料として、マグネシウムシリサイド系熱電材料を使うことは、技術的なハードルが高いとされてきました。

ただ、材料に関する技術ハードルがある中で、株式会社白山は、低温域で利用可能な熱電材料を作り出すことに成功いたしました。

独自の特殊な合金(マグネシウム・シリサイド・スズ)を利用することによって、50℃~200℃温度域で利用可能であり、素子材料としての性能であれば、ビスマス・テルル系材料にも相当するものです。

ただ、冒頭でも述べましたが、熱電材料は熱電モジュールに組み込まれることで、初めて使われるものになります。
熱電材料の開発だけではなく、その熱電材料の特性を生かす熱電モジュールの設計が必要不可欠になります。
また、熱電材料も実際に世の中に広めるものにするためには、材料の安定性や量産化までのプロセスまでの検討が必要となります。

こうして、株式会社白山の熱電材料およびその熱電モジュールの開発がスタートしました。

株式会社白山は、このレアメタルフリー熱電モジュールで、徐々に高まる脱炭素社会の実現の解決策として、技術によるソリューション提案を行いたいと考えています。
また、熱電モジュールはペルチェモジュールとして、光通信デバイスに使われています。

つまり、ペルチェモジュールは、私たちの主力製品である光コネクタ部品「MTフェルール」と同じ市場・企業で使われています。
そのため、株式会社白山の新規技術・製品としての大きな可能性を秘めています。

今後、この連載では、その熱電開発の研究&開発ストーリーを伝えていきます。

編集後記

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

株式会社白山の熱電開発が始まった経緯は、少しはお分かりになっていただけましたでしょうか?実は私が、この会社に中途入社したのもこの熱電開発へのチャレンジに大きく共感した部分もあります。
できる限り多くの方にこの取り組みを知ってもらいたく、分かりやすく発信していければと思いますので、今後もぜひチェックしていただけたら嬉しいです。

それでは、また、次の記事でお会いしましょう!

参考情報

NIMS「レアメタルの基礎知識」

株式会社白山の熱電開発関連ページ

中小企業庁 Go-Techナビ「レアメタルフリー熱電モジュールを開発!」
JAIST-NET「(前編)熱をエネルギーに変える材料開発に挑む」
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「高性能多孔質熱電材料の創製に成功―未利用熱を有効利用する高耐久性熱電変換モジュールの実現を目指す―」

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